引きこもりプレッパーのんびり生態記録

ひきこもりの毎日の日記。わたしはわたしのまま生きることにした

飄々【好きな日本語を小説にしてみた2/3】

 

飄々

 

新学年が始まった朝、転校生の挨拶があった。

 

「転校生の浅井です。お願いします」

 

こんな田舎に似合わない茶色の長髪に、耳にはピアスの穴が痛々しいほどいくつもあいている。

その長身の青年「浅井」は、ぶっきらぼうに短い挨拶を済ませると一番後ろの席に、ドスンと座った。

 

女子生徒たちはいつにも増してはしゃいでいる。

男子生徒たちも、興味津々のようだ。

 

 

 

「先生」

 

呼ばれるたびに、ドキリとする。教師になって初めて担任するクラスを持つのだから無理もないか。

 

このクラスは比較的扱いやすい生徒を集めた新人教師向けのクラスだ。だか他のクラスよりも人数が1人少なかったため、新学年ギリギリに転校してきた「浅井」が入ることになった。

 

転校生は2種類。目立つか、目立たないか。

どうみてもこの「浅井」は前者だ。目立つ転校生にはトラブルに次ぐトラブルが待っている。大抵、問題児たちに取り込まれるか、虐められるか…。

「浅井」が問題児になったら頻繁に保護者面談もしなければいけなくなる。親は離婚しているそうだが話の分かる親だといいが…。逆にもし虐められるようなことにでもなったらどうする?上にあげても大問題だし、判断を間違って最悪の事態にでもなれば日本中から袋叩きだ。

 

この先の「浅井」のことを考えると気が重かった。やかましい上司や保護者とのやり取りだけでも神経を使うのに転校生のことまで考える余裕は1年目の俺にはなかった。

 

 

しかし俺の心配をよそに、1ヶ月経っても、2ヶ月経っても、3学期になっても、「浅井」はトラブルを持っては来なかった。「浅井」は転校初日から特に態度も変わらず、成績も悪くはない。むしろいい方だった。交友関係も男女ともに問題はなかった。

 

「浅井」は男子生徒からも女子生徒からも、教師たちからもなぜか一目置かれていて、なぜか大切にされていて、なぜかいつも目立っていた。

 

放課後になると「浅井」は茶色の長髪を風になびかせながら、校門に向かう。部活動には入っていない。

 

飄々としたその後ろ姿が、憎らしく、羨ましかった。